佐藤春夫の台湾印象--｢女誡扇綺譚｣を中心に[日语论文]

要旨：『女誡扇綺譚』は佐藤春夫が1920年の台湾紀行から取材し、1925年5月『女性』に発表した作品である。1936年作品集『霧社』に収録される。作品全体に漂う荒廃―怪奇―幻想の情調を分析する。『女誡扇綺譚』は自然や地理的な荒廃だけでなく、気味な海の情景、幽霊伝説、花嫁姿の狂女の腐った死などの描写は怪奇の趣を表し、作者のイカモノ喰いな性癖を描き出している。市井の英雄沈氏、永遠を信じる沈嬢、野性に充ちた黄婢、幻想の光に包まれた三個の人物は物語を展開し、作品の浪漫的情緒をクライマックスに押し進める。　　また、作品に現れた身辺風景から社会問題へのアプローチに関心を寄せる。作中人物｢私｣と世外民の友人関係の接点について当時西洋諸国から日本へ伝わる人道主義や近代個人主義等の影響が考えられる。佐藤はこうした文明の衝突を意図的に見せているといえよう。さらに、佐藤春夫の台湾認識を考察した。当時の日本人作家にとって植民地台湾は怪奇幻想の発見の場所であり、日本本土と異なる感覚と想像を呼び起こす場所である。異国情緒があふれる作品として当時の日本人に親しまれており、好評になっている。日本人ははロマンチックな思いを抱きながら台湾に憧れるようになる。

キーワード： 佐藤春夫  ｢女誡扇綺譚｣ 　台湾　異国情緒